子供の歯は大人の歯に比べて見た目が小さく可愛らしいですが、その分、構造的にはとてもデリケートです。乳歯のエナメル質や象牙質は永久歯よりも薄いため、虫歯菌が作り出す酸によるダメージを受けやすく、短期間で進行してしまいます。例えば、わずか数か月の間に小さな白い点だったものが、大きな穴にまで広がることも珍しくありません。
また乳歯は再石灰化(自然修復)の力が弱いため、大人であれば唾液の働きで回復できる初期虫歯も、子供の場合はあっという間に進行してしまいます。「どうせ生え変わるから大丈夫」と考えて放置してしまうと、永久歯の歯並びや咬み合わせに悪影響を及ぼすこともあります。乳歯は“仮の歯”ではなく、“将来の歯を導く案内人”として大切に扱う必要があるのです。
もうひとつ大きなリスクは食生活です。特に子供に多いのが「ダラダラ食べ」。スナック菓子やジュースを長時間かけて少しずつ摂取する習慣は、口の中が常に酸性状態になり、歯が休む暇を与えません。唾液の中和作用が追いつかないため、虫歯菌が活動しやすい環境になってしまいます。
また、寝る前に甘い飲み物やミルクを与える習慣も要注意です。就寝中は唾液の分泌が大幅に減るため、虫歯菌が一晩中活発に活動できる状況になります。実際に「夜だけ哺乳瓶でジュースを与えていたら、前歯が一気に虫歯になってしまった」というケースも多くあります。親御さんのちょっとした配慮で、虫歯のリスクは大きく変わるのです。
奥歯の溝は虫歯の温床となりやすい場所です。特に6歳臼歯は生えた直後から一生使う大切な歯ですが、その溝が深いため磨き残しが多く、虫歯のリスクが高くなります。そこで役立つのが「シーラント」です。歯科用の樹脂で奥歯の溝を埋め、食べかすや細菌が入り込まないようにする処置です。
処置は数分で終了し、削る必要もないため子供でも怖がらずに受けられます。白い樹脂を使うため見た目にも自然で、日常生活に支障をきたすことはありません。シーラントは“歯の鎧”のような存在で、奥歯を虫歯からしっかり守ってくれます。
シーラントは乳歯の奥歯や6歳臼歯が生えてきた時期に行うのが最も効果的です。歯が完全に生える前から処置をすることで、萌出直後の一番虫歯になりやすい時期を守ることができます。メリットは大きく、奥歯の虫歯発生率を大幅に下げることが可能です。
ただし、シーラントは永久的なものではなく、時間の経過とともに一部が取れてしまうこともあります。そのため定期的な検診で状態をチェックし、必要があれば補修を行うことが大切です。親御さんが「やって終わり」と思わず、継続的にフォローしていく姿勢が重要です。
特に仕上げ磨きは親子のスキンシップにもなります。「嫌がるからやめてしまう」ではなく、歌を歌ったり数を数えたり、楽しい雰囲気をつくって継続することが大切です。
歯科医院でのケアは「虫歯ができてから行く場所」ではなく「虫歯を防ぐために通う場所」として活用してください。親御さんの意識が変わることで、お子さまの歯の健康は大きく守られます。
子供の虫歯予防は、乳歯の弱さを理解し、食生活に気を配り、家庭と歯科医院の両方でケアを行うことが大切です。フッ素やシーラントといった専門的な予防策を取り入れることで、虫歯リスクを大きく減らすことができます。
乳歯の健康を守ることは、その後の永久歯の歯並びや一生の口腔健康につながります。親御さんのちょっとした工夫と定期的な歯科医院でのサポートで、お子さまの笑顔と健やかな歯を守りましょう。